手のひらから伝わる 前編






夏の、暑い日だった。

森に出たはぐれ召喚獣の討伐を手伝って欲しい、とスウォンから連絡が来て、

綾は仲間たちと連れだってガレフの森に向かっていた。



森に入るまでは直接陽射しが照りつけて痛いほどだったが、森の中ではそれほど強くなかった。

代わりに、じっとりと蒸している。


「キノコとかよく育ちそうじゃねーか?」

「えぇ、森に現れたはぐれ召喚獣も、キノコみたいな奴ですよ。
 
 前に、ガレフと一緒に出てきていた・・・」


ガゼルとスウォンがそんなやりとりをしている。

ガゼルのそれは、あわよくば食料調達して帰ろうというものなのだが、

森で暮らすスウォンには食料よりもはぐれのほうが問題なので気付いていない。

噛み合っているようでいない会話に、そのすぐ後ろを歩いていたアカネがくくくと笑った。

綾はぼんやりとそれを聞く。

実は、先ほどから集中力が落ちていた。

どうも、頭がぐらぐらして、視点が定まっていない気がする。

まるで、寝不足の日の学校で、午後1時間目の授業を受けているかのようだった。


(ね、眠いわけじゃないんですけど・・
 
 これじゃぁ、皆さんの役に立てないかも・・・がんばらなきゃ!)


べたべたする額を拭って、頭を軽く振ったのを、


「どうかしたのか、綾」


それに気付いたらしいキールに背後から声をかけられた。


「だ、大丈夫ですよ?」


答えると、キールは微かに眉を寄せる。


「・・・それなら、いいんだけど」


が、あとはもう、何も言わない。

黙々と歩くキールに押されるように、仲間たちを追いかける。



やがて、先頭を行くレイドがぴたりと足を止め、


「いるな」


一言呟いた。


「昨日見たときより、増えています・・・!」


スウォンが茂みの向こうを伺って数を数え、


「さっさと片づけようぜ」

「そうそう、先手必勝だよっ」


ガゼルとアカネがうずうずとそれぞれの武器を取り出した。


「綾とキール、それにスウォンはいつも通り援護を頼むよ」


すらりとレイドが剣を抜き、よっしゃ、と叫んで素早い二人が飛び出して行く。


「・・は、はい!」


キールが杖とサモナイト石をかちりと合わせる音に我に返る。

くらり、と目眩を覚えたが気にしている場合では無い。


「タェクシーミザリ、稲妻を!!」


レイドとガゼルの間へうぞうぞと動いてきたキノコに狙いを定め、喚ぶ。

ケケケと笑うように応える、声。

が。


「・・・あれ?」


スゥ、と魔力が吸われる感覚があった。

いつもと違う、頭がぐらぐらするような気持ち悪さに、集中力が乱れる。


(術が、上手く制御できてないです・・・!?)


タェクシーミザリの笑い声が、耳の奥でやけにこだました。


(変・・・わたし・・・?)

「綾!?」

(はい。何、でしょう・・・)


遠くで誰かに呼ばれたような気がした。

返事をしようとしたが、声にならず。

意識が、途切れた。



後編へ




作・風矢玲紀様




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