お兄ちゃんと一緒






今日は留守にすると宣言されていたので私は台所に向かった。

『レンジでチンして食べてね』

テーブルの上には浮かれながら書いたのがわかるメモが一枚。

簡単な昼食を二人分作り置いて、最近母親となったばかりの女性は父と共に旅行に出かけていった。

はいているジーパンを引っ張られて足下を見るとこれまた最近出来たばかりの妹が見上げている。


「レイくん・・」


テレビでは正午から放送予定のバラエティ番組が始まったところ。

妹であるアヤはおさえているお腹をくぅと鳴らした。

何度呼ぶようにいってもアヤは『お兄ちゃん』とは呼ばない。

レイドという名前は小さい子供には発音しにくいらしく、色々考えて呼んでみたらしい『レイ君』という呼称が

彼女自身気に入ってしまいそれ以来ずっとそう呼ばれている。


「ご飯、大丈夫ですか?」


不安な顔をする妹を安心させたくて頭をそっと撫でる。

今まで姉弟を持ったことはなく、我ながら手つきが滑稽なくらいぎこちない。

それでも何度か手を動かしている内に目的は達成できたらしくアヤがにこりと笑って見せた。

昼は大丈夫。夜は店屋物を取ろうかと思っているが・・。

少しくらいは料理を覚えておくべきだったと今頃後悔しても遅いが、

小さい子供に味気ない電子レンジ料理やら店屋物やら続けて食べさせてもいいものなのか。


兄というよりこれは親が考えるような考え事の部類のような気がするが、

今彼女のそばにいるのは私だけなのだから仕方がない。

この間にも今からはテレビのなかの笑い声が台所まで響いてくる。


「アヤ、君はテーマパークは好きか?」

「てー・・?」

「遊園地だ」


『○○ランドでイベント開催中!よい子のみんな、遊びに来てね!!』

きっとキャラクターになりきった演技でかぶり物をした大人が画面いっぱいに出演しているのだろう。

聞こえたテーマパークの名前はこの家の近くにあるもので、アヤはこくりと頷いた。


「おかあさんとまえにもいったから」

「そうか。私とで良ければ今から行かないか?」


またこくりと頷く。

よほど好きなのだろう、彼女には珍しいことに頬が上気している。

まだお互い傍にいる事に馴染んでいないのだから受け答えに四苦八苦してしまうのは仕方がない。

まだ家族ごっこの域を出ないでいるというならこれから本当の家族になればいいし、

そうなるように私が率先してやればいいのだ。


「おいで、アヤ」

「あ、」


軽い体を抱き上げて肩に乗せると慣れない視界のせいか

アヤが「ふわぁ」と泣きたいのか喜んでるのかわからない声を出した。

アヤの手が私の頭にしがみついて、『子供の力は案外強いんだな』、そんな何でもない事をやっと知った。


「昼食もそこでとろう。アヤは何か食べたいものはあるか?」


良い兄になろう。アヤはこんなに可愛らしい。それならきっとなれるだろう。

これはその為の第一歩。

慣れない場所で案内する事は出来ないが、二人迷いながら乗り物を回っていくのも

やってみれば案外楽しいかもしれない。

アヤにもそんな私の気持ちが通じたのか、真剣な目で私をじっとみつめている。


「レイくんのすきなものもありますか?」

「大丈夫だよ」

頷くと余程嬉しいのかアヤは頬を紅潮させ抱きつく腕に力を込めた。




作・セフィ様




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