Happy Wedding |
新居の一室でアヤは時を静かに待っている。 日本から持ってきた腕時計が立てる音より少し早いリズムで胸がときめく。 身につけたドレスはふんわりプリンセスライン。 ベールは花冠で彩られ、白い花嫁は何処までも可憐で愛らしかった。 「綺麗よ、アヤ」 「ありがとうございます」 リプレの感嘆の溜息も誇らしく、アヤは手触りの良いその布地にそっと手を滑らせる。 ドレスは頑張って自作した。 リプレに一から教えてもらいながら、生地を選び型紙を取り鋏を入れた。 デザインもレイドの正装とのバランスを考えてセシルやサイサリス達に相談に乗ってもらって決めた。 「本当にマリアヴェールでなくて良かったの?」 「ええ。考えてみれば私は聖母になりたいわけではなかったので」 一針一針、未来への希望と夫となる人への愛情を込めて縫い上げたドレスは、そんなものになるためではない。 途中で気づいてヴェールは形を変えた。 「私はレイドさんの奥さんになるんです」 ふわり。 アヤは笑う。 花冠とブーケに使った花はフラットの子供達からの贈り物。 『幸せになってね』 一緒に渡された祝福の言葉に迷わず頷いた。頷いた拍子に、嬉しくて涙が出そうになった。 「その為のドレスです」 今日を迎えるまでに要した準備の時間はみんなが予想したものより大分長かったかもしれない。 その間に求婚も式も済ませてしまったラムダとセシルが少し呆れていた。 コンコン 控えめなノックをしたのはもう一人の今日の主役。 「・・・入ってもいいかな?」 リプレ越しにアヤに見とれながら許可を求める。 「どうぞ」 くすくすと二人分の笑い声がくすぐったい。 式典用の騎士の礼装に身を包んだレイドもまた素敵で、アヤもその姿に思わず見とれて視線を離せない。 「ごゆっくり」リプレが退出して部屋に沈黙が下りる。 カチコチカチコチ 時間だけが急かすように流れていく。 「私・・夢だったんです」 「え?」 「好きな人のお嫁さん。それが私の小さい頃の夢だったんです」 レイドさんに会うまで忘れてましたけど。 続けた独白はそっと胸の中だけの秘密にして、アヤは幼い頃と同じ顔で憧れを瞳に移す。 「叶ってしまいましたね」 その表情にどきりとする。 「レイドさん、今幸せですか?」 ドアの外から予定の時間になった事を告げられて、アヤはレイドの腕に腕を絡ませる。 神の存在しないリィンバウムでは当然のように人前式スタイル。出席者は広間に集まり二人の到着を待っている。 「ああ、君が奥さんになってくれたから。私はとても幸せ者だ」 急かすノックを少しだけ待たせて、アヤは少しだけ背伸びをする。 「皆さんの前で誓う前に貴方だけに誓わせてください」 穏やかで誠実で理想を曲げられない。いつだって不器用で優しいアヤだけの王子様に。 「世界で一番、貴方が好きです」 作・セフィ様 |
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