AM 7:30






柔らかな朝の日差しに眩しそうに眉を顰めたレイドは腕の中にある黒髪を一房手に取る。

昨日は少し愛しすぎたかもしれない。

規則正しい寝息を漏らす最愛の女性が目覚める前にと優しく抱きしめようとしたレイドは、

目に入った枕元の時計にその動きを止めた。


『7:30』


いつもならとうに起き出している時間である。

窓の外に目をやれば薄いレースのカーテン越しに見える太陽は

いつもより急いで登っていったかのような位置にある。


「しまった!!」

「・・・ふぁい?」


アヤの寝ぼけた声が愛らしかった。



「え、どうして、もしかして火が強すぎですか!?」

「アヤ、アイロンのかかってるYシャツはあるか!?」

「それなら奥の部屋につるして、きゃー!黒こげ!!」


一日で一番せわしない時間、今日は特に急いでレイドはアヤが指さした先のYシャツに腕を通し

スーツという名の戦闘着に身を包む。

台所で尚も悲鳴が上がっているが寝坊した今日は特に時間がない。

「すまない、アヤ」と構ってやれないことを心中で詫びて隅に纏めてあったゴミ袋を掴んだ。


「じゃあ、アヤ。火の元にはくれぐれも気をつけて!」


今日も今日とてビジネスマンは電車に揺られてご出勤。

差し迫った発車時刻を気にしながら革靴に足を差し入れる。


「レイドさん!忘れ物です!!」


台所の惨事を何とか納め、焦った足音で近づいてきたアヤが手を伸ばし、レイドの首を捕まえる。


「家に帰ってくるまで気をつけて。お仕事頑張って下さいね」


爪先立ちのアヤに合わせてレイドが屈む。


ちゅ


羽根が触れたような軽い感触。

慌ただしい朝もこの瞬間だけは静かになる。

これから日が暮れるまで頑張り通す為の大切な儀式。


「いってらっしゃい、レイドさん」

「いってきます、アヤ」

手作りの弁当を携えレイドが走る。

こうして今日も一日が始まる。




作・セフィ様




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