喜びの詩 |
風に乗って届いた薄紅色の花びら。 「今日のお昼は外で食べようかしら・・・」 リプレがぽつりと呟いた。 鼻をくすぐる甘い香り。 川の土手沿いに植えられているアルサックは咲き誇っているものは勿論 散った後も綺麗に道を彩り視界を一面ピンクに染め上げる。 剣術道場までリプレからの伝言と迎え役を引き受けたアヤは 先に花の咲き具合を確かめようとレイドとアルバと並びながら川沿いの道を歩いている。 文句などあり得ない見事な満開ぶりに会話も弾み、少しだけと昼食前の散歩を楽しんでいた。 「ねーちゃん来る前に台所覗いた?」 「ええ。ご馳走が並んでいて見ているだけで楽しかったですよ」 「ホントに!?やったぁ!!」 アルバが歓声を上げて走り出す。 「今回は邪魔が入ることはなさそうだな」 アルバのはしゃぐ姿が微笑ましくて目で追っていたアヤが一緒に隣を歩いているレイドを見上げた。 「ええ。あの時とは状況も違いますし、もしまたかち合ってしまっても険悪になることはないですよね」 前回のことを踏まえてリプレはちょっと多すぎるんじゃないかと心配になるくらい張り切ってお弁当を作っていた。 アヤがまだフラットの仲間になって間もない春の日の出来事。 ガゼルに誘われてやった初めてのつまみ食いは夕食抜きというこれまた初体験の結果に終わった。 あの時の切なさは今もまだはっきりと覚えている。 「もうお腹をすかせて眠るのはこりごりです・・・」 「私も君を叱らなくて済むのならありがたいかな」 ははは、と屈託無く笑うレイド。少しだけ恨めしそうに見やったアヤはそっとレイドの服の袖を引いた。 「わたしだって・・・お説教はされたくないですよ」 アルサックと同じ色に頬を染めてアヤは唇をとがらせた。 しかしそれも長くは続かない。見守るようなレイドの視線に恥ずかしそうに微笑む。 「今日のお弁当、わたしも手伝ったんですよ。卵焼きとか、大したものは作れないですけど」 「じゃあそれは忘れずに食べないといけないな」 「え?」 木に挟まれた道の間をさぁっと風が吹き抜け花びらが一斉に舞い上がる。 埋め尽くされた視界の中、唇に笑みを浮かべるレイドを目にしたアヤの胸がきゅうっと締め付けられる。 どきどきして、ふわふわして、顔が熱い。 「凄い風だな」 「・・・・・・・・・ええ」 やっと返した返事も上の空。花に見とれるようにレイドに見とれてアヤの視線は上向きに釘づけられて。 「ねーちゃーん!レイドーー!おっそいよーーー!!」 駆け戻ってくるアルバの声で現実に戻る。 「待ちきれなくなったかな?」 「・・・元気ですよね」 少年期の旺盛な食欲はレイドにも覚えがある。顔を見合わせてくすりと笑い合う二人。 行こうかとレイドが促した矢先アルバがアヤの空いている方の手を握った。 「二人とも早く帰ろうよ!!俺もうお腹ぺこぺこ!!」 「きゃっ!ちょっと待って下さい!!」 手を強く引かれて慌てるアヤ。レイドがアルバに便乗して未だ袖に触れていたアヤの手を握った。 「リプレも待ちかねてるだろうからね」 アルバとレイドに両側から手を引かれて一生懸命二人に着いていこうと足を動かすアヤ。 息が上がって苦しくて。それでも抑えた速さで走ってくれている二人がはしゃいで笑うのにつられてアヤも笑う。 花のトンネルを駆け抜けて南スラムに入り、いくつかの見知った顔とすれ違う。 三人の微笑ましい様子にみんな表情を和ませて中にはエールまで送る者もいた。 「ねーちゃん早く早く!」 「もうすぐだ」 「っはい!!」 フラットの前では仲間達が勢揃いして待っていた。勢いよく走り込んでくる三人にリプレがお弁当を掲げる。 「レイド、アルバ、おかえりなさい!!アヤもご苦労様!!」 お腹をすかせたお昼は格別の味になる。 「「「ただいま!!」」」 声を揃えて笑顔で返した。 作・セフィ様 |
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