身勝手





力を持つものが、弱いものを守るのは当然のことだ。

力を持たなくても、大切なものを守るのは当然のことだ。

そう思っていた。



しかし、望まない力を持たされてしまったら?

彼女は戦わなくてはならないのだろうか。そして苦しむのだろうか。

自分と関係ない世界の為に。



「世界を救うとか、そんな大それたことをするつもりはないんです」


「え?」


「私の周りの大切な人たちを守りたい、それだけです」



迷いなどないように見えた。

真っ直ぐ、自分が望むことを実行するだけ。

でも彼女の望むことは、つまり世界を救うことで、とても重いことで。

彼女の華奢な肩には、無理な荷物としか思えなかった。



知っているかい。私は、世界なんて救いたくないとも思っているんだ。

そうすることで、君が辛い目に遭うことになるなら。



こういう考えを言ったら、君はきっと私を軽蔑するだろう。

でも、大義の為に小事を切り捨てる、そういう考え方は君も嫌いだと言っていたね。

犠牲を伴わずに革命はなしえない。どんな犠牲も認める訳にはいかない。

でも、君は君を犠牲にすることを躊躇わないんだ。


それは何も、死のみを意味する訳ではない。

そう、例えば、こちらの世界に来てから、ずっと君は普通の人としての生活は得られずにいる。

異物とされて、戦いに巻き込まれて。

どうして、誰よりも優しい君が。



世界が救われても、君がいなければ意味なんてない。

生きていてさえくれれば、傍にいなくてもいいとか、そんな殊勝な気持ちは何時間も保たなかった。

派閥の召喚師たちと共に、自分の手で断ち切ってしまった。



どうしたら君を、私の手で幸せにしてあげられる?

醜いもの全てを君の目から隠そうか。綺麗なものだけ見ていられるように。


答えはわかっている。最初から彼女は望みを口にしている。

大切な人たちを守りたいと。

君が心からそう望むなら、そうすることで君が幸せになれるなら。


私は、君が平和な世界を目にすることが出来るように、剣を取る。




作・深水りこ様 http://irodory.soragoto.net/




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