クリスマス・イブ |
編み棒から毛糸をはずし、端の始末をする。 「出来ました」 リィンバウムに呼ばれた時持っていた鞄に入っていた時計は今でも日本の時間を正しく刻んでいる。 二本の針と液晶の表示板。 示されている日付は12月24日。 編み上がったものをプレゼント用に用意した袋に入れようとしたアヤの耳に扉を開ける音が届いた。 「大変!!」 アヤは急いで部屋を飛び出した。 寒い日の暖房事情はリィンバウムでもそう変わらず、冬は火事が起きやすい。 南スラムでは住民によって任意の自警団が組まれ夜の見回りをしている。 騎士団に属しその中でも人をまとめる立場にいるレイドはここでもやはりまとめ役を頼まれていた。 今日も夜遅くにフラットを出て少し歩いたところで、 「レイドさん!」 声をかけられて振り返ると息をはずませて走り来るアヤがいた。 「アヤ」 皮膚が裂けてしまいそうな程冷えた外気の中に飛び出して来たアヤは寒さに対して何の防備もしていない。 「駄目じゃないか、そんな薄着で。風邪を引くぞ」 「大丈夫です。すぐ戻りますから。それよりこれを受け取って貰えませんか?」 アヤは手に持っていたマフラーを両の手のひらに乗せて広げて見せた。 「これを・・私に?」 「はい。今日に間に合わせようと思って頑張りました」 受け取ったレイドがそっと首に巻いてみると軽くて温かい。 色は深い深いモスグリーン。 アヤが時間をかけて選んだその色は着ている服にも馴染んでレイドにとてもよく似合っていた。 「わたしの世界では明日はある宗教の神様の誕生日で、大切な人に贈り物をしたりするんです。 少しフライングですけど」 25日が神様に感謝する日なら24日のイブは・・・。 日本育ちのアヤからすればその日は女の子にとって少し特別な日で、 アヤとてそういうものに憧れない訳ではない。 フラットで二人きりになるのは難しいがせめてなにかを贈りたくて。 喜ぶその顔を見たくて。 寒さと好意で耳と頬を赤く染めて見上げられるその真っ直ぐな気持ちをくすぐったく思いながら、 贈られたプレゼントが嬉しくてレイドはマフラーに触れる。 「ありがとう」 「気に入って貰えましたか?」 「ああ、とても嬉しいよ。・・・しかしすまないな。私には返すものがない」 本当に言葉の通りの感情を浮かべるレイドにアヤは「気にしないでください」と言って笑った。 その笑顔からアヤの最初から見返りなど求めていない気持ちが伝わってきて ますます申し訳なさが募ってしまう。 レイドはせめてもとアヤの後ろを見てフラットの玄関の扉がきちんと閉まっていることを確認した。 「アヤ、目を閉じてくれないか?」 「レイドさん?」 「頼むよ」 ちょっと困った顔と声に促されてアヤが目を閉じるとレイドはアヤに顔を近づけた。 額に感じた柔らかい感触にアヤがぱちりと目を開ける。 「これ以上身体が冷えるといけない。早く中に戻りなさい」 レイドは驚くアヤに背を向けるとそそくさと振り向くことなく去っていった。 「お礼・・・ですか?」 遠ざかる背中を見詰めながら額に手を当てると、そこだけ息づいているかのようにぽっぽっと熱かった。 「メリークリスマス。レイドさん」 レイドの姿が見えなくなってもその余韻を楽しむように。 リプレとカシスが心配になって出てくるまで、アヤはずっとその場所に佇んでいた。 作・セフィ様 |
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